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湿舌/1

昔に書いた小説をアップする。
この【湿舌】は、自分が書いたなかでも一番のお気に入りの作品です。
サイトを持っていたときも、アップしていました。推敲が甘いので、ときどき変な表現が残ったままです。




湿舌(しつぜつ)
2005/ 6/26 起稿
2005/ 7/ 2 脱稿

<WEB公開用キャッチコピー>

玉置が遺書を残して自殺した。玉置と菊池は、子供の頃からずっと一緒に過ごしてきたが、二人はまったく違うタイプの人間で、玉置は性同一性障害を持っていた。仕事も長く続かない玉置を心配して、菊池はその両親に会いに行ったりといろいろと面倒を見るが・・・。菊池の脳裏に、玉置と過ごした少年時代の記憶が時空を超えて蘇る。


<本文ここから>

 わたしにはもう、この先の長い人生を生きていく力がありません。
 玉置が残した遺書のなかには、その一文しか書かれていなかった。玉置はもうすぐ二十三歳になるところだった。俺は玉置が、二十二歳と二十三歳との間は一年しか違わないけど、これから二十二歳になるっていうときと、二十三歳になるっていうときでは何か違うよね、と言っていたことを思い出していた。
 俺はあと十日で二十三歳になろうとしていたが、玉置が言いたかったことについて明確にはわからない。数字の二と三の違いだけかも知れないし、玉置のイメージのなかにあった二十二歳と二十三歳のライフスタイルに何か異変があったのかも知れない。
 だが俺は今日も、淡々と二十二歳の時間のなかにいるだけだ。何故か、玉置に近づかなければならないような気がした。玉置が感じていた時間の流れに自分も乗って、玉置が感じていた空気や妄想や、イメージする状態のなかへ入り込んでみたいと考えるようになった。
 玉置と俺は、子供の頃から一緒だったが、まわりの友達と違っていた面がある。俺は小学校のとき、ずっと坊主頭だったが、玉置は肌が白く髪の毛が長くていつも羨ましく思っていた。俺の家は親父が定職に就かない人間だったので貧乏だったが、玉置の場合は平凡でお金が困る様子はなかった。俺は一人っ子だったが、玉置には兄弟がいたり親戚が多かったりして、家に帰っても退屈したり寂しがったりしていたことはない。玉置は、病弱というわけではなかったが、体育の授業があるといつも休んでいた。俺は人をいじめたことがあるが、玉置は人にいじめられた経験しかない。玉置の異変に気がついたのは中学生になってからだが、そのとき俺は別に玉置がどういうふうに変わっても将来的にどういう影響があるとか、そういう現実なところまで考える知識がなかった。

 玉置の遺書は、殺風景な俺の部屋にただひとつあるスタイリッシュなスチールの銀色のカウンターの上に、白い封筒のなかに入って置いてあった。そのカウンターは玉置が選んでくれたもので、俺は絶対にいらないと言ったが玉置は、菊池くんの部屋は何もないから、こういうのがひとつでもあったほうがいいと言って無理やり郵送してくれた。いらないと思っていたが、そのカウンターには、部屋の床に散乱していたものを殆ど収納することが出来て実際は助かっている。
 玉置の置いていった封筒には、この手紙は遺書であるという意思が明確には記されていない。だから、その文章を読んだとしても、弱音だとか、助けを求めているとか、その程度にしか捉えることが出来なかった。玉置の遺書を読んでから俺は、シャワーを浴びて近くのコンビニからコーヒーと水と軽めの朝食を買ってきて、ひと段落ついたところで煙草を吸いながら玉置の携帯電話に電話したが繋がらなくて、それでもまだその文章が遺書かも知れないと気がつかず、その後も何もする気になれず近くのドトールに行って二時間くらいねばり、部屋に帰ったところではじめて、何かがおかしいと気がついた。俺の部屋の前に夏だというのにスーツを来た男がふたり立っていたからだ。夏でもスーツを着ている人間を、俺は警官以外に知らない。当然そのふたりは警察のひとで、玉置さんをご存知ですか、と尋ねられると、すぐに玉置が俺の部屋に残して行った封筒のことを思い出したのだった。
 警察は、まったく暑い日ですねとか、今日はお休みの日でしたかとか、そういう話はしなかった。部屋の扉の前で額に大粒の汗を滲ませながら、実は玉置さんが自殺しましてね、と言った。本当に暑い日で、俺の部屋は五階にあるが、そこから見渡す街の風景が白くなって見えた。
 警察はそのあとに何かを話して、もしよかったら部屋に上がらせてもらって玉置さんのことで少しお話を伺いたいのですがよろしいですか、と言った。断る理由が見つからず、ふたりの警察を部屋に上げると、ひとりの警察が、涼しいですね、とハンカチで汗を拭いながらもうひとりの警官に同意を求めたようだったが返事はしなかった。俺は帰って来たときに部屋が暑いと嫌だから、冷房を入れっぱなしにして置いていたのだ。
 警察と俺が、玉置が送ってくれたスチールのカウンターを挟んで対面になって座る。警察と話をするのは小学校の交通安全教室以来だったが、暑かったせいもあるし、歩いて帰ってきて多少息が切れていたので、緊張する状態にはならなかった。カウンターの上には、玉置の書いた遺書が置いてあったが、警察が座る前に反射的に隠した。何故隠したのかはよくわからないが、玉置が書いた文字を警察に見られたくないと思った。
 水しかないのですが、と言って冷蔵庫のミネラルウォーターをコップに注いでふたり警察官に差し出す。警察官は何も言わずにそれを飲み干すと、玉置さんの身の回りの人に連絡を取りたいと思ったが、差し当たって近くの人間と言ったあなたの名前がありまして、ああ向こうのアパートの大家さんに聞いたんですけどねと話を始めた。
「よくあなたが、玉置さんのご自宅へ来られていたという話を聞きまして、大家さんとも顔見知りだったということでしてね。あの、もしご存知でしたらですけど、最近の玉置さんの行動について何か変わったことなどはありませんでしたか」
 ふたりともすごい汗で、さっき飲み干していたミネラルウォーターがすべて体中から滴り落ちているように思えた。履いている靴下やシャツや頭皮から異臭がしてきそうで嫌な気分になる。俺は、いいえ、と首を振った。いいえ特に、変わったことはなかったです。
「そうですか、あの、何ていうかですね、あなたと玉置さんのご関係というか、それはどういったものでしたか。お友達、ということでしょうか」
 どういったものでしたか、という言葉が耳につく。でしたか、とは何だ。もう存在していない過去のものという言い方で腹が立った。
「あ、いいや、お話になりたくなければけっこうです。一応ほら、私たちも捜査をしないといけないものでして、相手がひとりでしたので尚更のことなんです。お気に触ったのなら謝ります」
 そのあとも何度か質問をしてきたが、俺はうわの空で聞いていた。部屋のなかには警察の話す声以外、何の音もしないし、動いているものはふたりの警官が汗を拭く仕草だけだ。
 俺は警察が、どうも失礼しました、と言って帰った後もしばらく呆けていた。警察から言われた言葉や、玉置が残した遺書のことを考えている。そのひとつひとつを点として繋ぎ合わせていくと、玉置は死んだんだ、という結論に達することが出来るが、そのことと俺が玉置が自殺したことを信じることとを結びつける線はまだない。いろいろなことが頭に浮かんだ。玉置は孤独だったからだ。
 玉置の部屋に行かなければならないと思った。あまり動く気になかなかなれなかったが、またあの警察のふたりが玉置の部屋に入っていろいろと物色し始めると思うと許せなかった。誰にも玉置の部屋に入らせるわけにはいかない、そう思って部屋を出て、階段を駆け下りて玉置の部屋に向かって走った。走ろうと思っていたのではなく、急がなければまたあの警官のふたりが玉置の部屋に入ってしまう。絶対に玉置を傷つけたり、誰も玉置の姿を他人のイメージのなかに入り込ませたりさせないと思った。
 玉置の部屋に辿り着く前に、玉置の両親に会ったときのことを思い出した。最近のことだ、玉置の両親は、玉置自身とはもう会えないのではないかと言って泣いた。自分以外の誰かの親が泣く姿を目の当たりにしたのは初めてのことで、どうしたらいいかわからなくなったが、希望のないことは言いたくなかったので、そうかも知れません、と言ったのだ。確かその日も今日のように夏の暑い日だった。玉置の両親は清楚な服装に着替えて東京から出向いた俺を迎えてくれて、玉置の実家でテーブルを挟んで対面に話していたときも、さっき俺の部屋に来た警察の同じようにして汗を拭っていた。俺は、別に、と言った。別にご両親のふたりが悪いわけではありません、ただご両親の考えられている玉置さんの感覚と、玉置さんが自分自身で考えているイメージが、かけ離れていることが問題なのです、玉置さんはもうあれ以上自分自身を変えることは出来ないでしょう、僕はこうやって玉置さんとご両親との架け橋のような存在になることはねずみのクソほども苦に思っていませんが、この状態がずっと続くわけではないことはおわかりになるでしょう、希望をなくすようなことを言うようですが、今はご両親も玉置さん自身も、理解してあげようとか、理解されようとか、そういうことを考えられているようには思えません、期間も重要です、もうそろそろお互いに会って、話をしてみなければ取り返しのつかないような事態になるような気がしてならないのです。

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小説/【湿舌】 | trackback(0) | comment(1) |
>> 2007/05/14 13:14
こんにちは!ヽ( ´ ▽ ` )/ 

★タッキー@闇黒魔人★です!


「記事を拝見させていただきました^^

すごく楽しくて、いつも見させてもらってます♪

記事を読んでいると、すごく元気が出ます!
私もブログを書きたくなってしまいます(^^♪

これからもずっと応援しております。
また、遊びに来ますね(^^)v」








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